鈴芽の故郷へ
物語クライマックス、鈴芽が幼少期を過ごした「故郷」として描かれる東北の沿岸部。震災で失われた風景を背景にした作品のテーマと地続きの場所であり、現地は復興工事と慰霊の場が混在する。
鈴芽の出身と故郷は、原作設定では岩手県宮古市赤前地区とされる。物語のクライマックスで描かれる「故郷」の風景は、宮古から釜石、大槌にかけて広がる三陸沿岸部のリアス式海岸と漁村が重ね合わされたものだ。似た入り江と漁港の風景が、県境を越えて連なっている。海は変わらず青い。 このエリアの多くは東日本大震災で被災し、現地には復興工事の現場と、慰霊・伝承のための施設とが今も共存している。作中で鈴芽と草太が最後に抱き合って別れる場面のモデルとされるのが、三陸鉄道の織笠駅だ。震災の記憶が刻まれた土地を舞台に選んだ本作は、失われた風景と再生の過程そのものを物語のテーマに重ねている。 アクセスはJR釜石線、三陸鉄道リアス線、あるいは三陸自動車道経由の車移動になる。震災遺構の撮影やSNSへの投稿は、被災された方への配慮を最優先にし、施設管理者の指示に従いたい。気仙沼・釜石・大槌の伝承館を合わせて訪ねると、作品が背景に置いた土地の記憶がより深く伝わってくるはずだ。一度で全てを回りきろうとせず、時間をかけて歩きたい沿岸でもある。 本作は各地に潜む「後ろ戸」を鈴芽が閉じていく旅を描き、東北の沿岸を訪れる場面は物語の重要な位置に置かれている。ファンタジーとしての物語と、実際にこの土地が経験してきた出来事とを重ねて見てしまう瞬間は少なくないだろう。車窓から見える漁港や高台の防潮堤ひとつひとつに、この土地が重ねてきた歳月が刻まれている。観光として消費するのではなく、静かに立ち止まって見つめる、土地の記憶に触れる旅として歩きたい場所だ。
アクセス: 三陸鉄道リアス線・JR 釜石線「釜石駅」起点