奥出雲の渓谷
大馬木川が花崗岩を刻んだ約2kmのV字峡谷。国の名勝・天然記念物。VIVANT では第9話の川べりのシーンで登場する。
VIVANTで乃木のルーツをたどる島根パート、第9話の川べりの場面に使われたのが、奥出雲の渓谷・鬼の舌震だ。斐伊川の支流・大馬木川が黒雲母花崗岩を長い年月削り込み、「鬼の試刀岩」「えぼし岩」など名の付いた巨岩と甌穴(おうけつ)が連なる約2.3kmの渓谷をつくりだしている。 渓谷の名は『出雲国風土記』の和爾(わに、実際はサメを指すとされる)伝説に由来する。求婚を拒んだ玉日女命が川を大岩でせき止めて隠れても、和爾が幾度も川をよじ登ったという言い伝えが「和爾の慕ぶる」から転訛し、「鬼の舌震」になったと伝わる。国の名勝・天然記念物として指定を受けているのも、この地形と伝承が織り合わさった価値ゆえだろう。乃木のルーツをたどる島根パートに、こうした古い伝承を持つ渓谷が選ばれたことは、物語が土地の記憶と結びついていることの表れとも読める。 川べりには遊歩道が整備され、往復すると1時間ほどかかる。2013年には車椅子でも渓谷美を楽しめるよう、生野駐車場から舌鹿駐車場までをつなぐバリアフリーの遊歩道と、高さ45m・長さ160mの吊り橋「舌震の恋吊橋」が整備された。橋の上からは、谷を刻む急流と紅葉や新緑に染まる山肌を見下ろせる。遊歩道は起伏があり、増水時には通行止めになることもあるため、歩きやすい靴で訪れ、足元に注意したい。奥出雲という土地の伝承と地形の両方を一度に味わえる渓谷として、島根パートを象徴するロケ地にふさわしい場所だ。 「鬼の試刀岩」という名前ひとつからも、この渓谷が古くから神話的なイメージと結びついてきたことがうかがえる。VIVANTという作品自体、国家の裏側やスパイの世界を描く一方で、乃木という人物のルーツを丁寧にたどる構成を持っている。その土地の記憶をたどる旅の途中に、こうした古い伝承を抱えた渓谷が選ばれたことは、単なる美しい景観としてだけでなく、物語の奥行きを支える要素としても機能しているといえるだろう。
アクセス: JR木次線「出雲三成駅」より車で約5分